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「アニバーサリー」の旅へ-ハワイの歴史(5)

ハワイ州誕生50周年記念特集 ハワイの歴史 第5回
新たな喜びと感動を呼ぶ「アニバーサリー」の旅へ

ハワイ州の歩みは観光、リゾート地としてのハワイの歩みと並行している。観光は今もハワイの第一の産業であり、経済を支える基盤だ。ハワイの未来にも、「観光」がその可能性の大きな鍵を握っているといえる。しかし、1990年の湾岸戦争勃発以来、ハワイの観光産業はさまざまな困難に直面してきた。ハワイを訪れる人々の「心」、「求めるもの」、「楽しみ方」の変化も著しい。ハワイの歴史を「観光」という側面からたどった記念特集の最終回は、1990年からの20年の歩みと、これからのハワイの展望をさぐった。(取材:宮田麻未)

 

1000人に1人の時代から10人に1人の時代へ 

  0129_011.jpg  ハワイを訪れる観光客の数は常に上向き傾向を示し、1990年には670万人を迎える。しかし、湾岸戦争を契機に勢いにかげりがさした。世界的な不況、1992年にカウアイ島を直撃したハリケーン「イニキ」の影響、アメリカ人の旅行形態の変化もある。メキシコやカリブ海などの競合リゾート地が現れ、「憧れ」だけで観光客を引きつけるのは十分ではなくなりつつあった。一方、日本からの観光客の数は1990年代も上昇を続け、ピークは1997年の220万人。しかし、それ以降は日本人全体の出国者数の減少や航空座供給量の減少などの要因もあり、減少傾向になっていく。出国者が渡航解禁当時の1000人に1人程度から、10人に1人の時代になれば、他の観光地やリゾートにはない「ハワイならではの魅力」を広く人々に認知してもらうのが急務となった。

 こうしたハワイ観光の新時代へ動きのリーダーとして登場したのが、ハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)だ。HTAは州政府の外郭団体で、6000万ドル(約54億円)の基金で1998年に発足。日本では2004年から、HTAの業務委託でハワイ州観光局(HTJ)が開設した。HTAは市場調査で世界的に有名なプライス・ウォーター・クーパーズ社に、詳細な市場調査に基づくマーケティング戦略の構築を依頼したのをはじめ、観光客向けの新しい産物や観光プロダクトの開発などに取り組み、積極的な活動を開始。「ハワイの風土と島民の歴史文化こそ観光の基盤」と位置づけることからマーケティング戦略をスタートさせた。この背景にあるのは、「ハワイアン・ルネサンス」に始まる、アイデンティティの復活と環境保護への深い関心だ。

 

ハワイアン・ルネサンスとエコツーリズム 

  0129_021.jpg  ハワイアン・ルネサンスは、1778年にキャプテン・クックが上陸する以前のハワイ文化を復興しようという運動。例えば、映画の『ブルーハワイ』などに登場するモダンフラは一般的なフラのイメージであるが、これは19世紀以降に作られたもの。それとは大きく異なる古典フラを復活させて、フラを活性化しようとする動きもハワイアン・ルネサンスの現れだ。

 また、古代の祭祀の跡や聖地の保護、ポリネシア文化との広域比較研究なども、ハワイアン・ルネサンスの影響だ。最も有名なのは、1976年にハワイからタヒチへ航海したホクレア号だろう。古代ポリネシアの航海カヌーを復活させたこの船は、近代器具を一切使わずに航海に成功。古代ポリネシア文化と技術の高さを証明して見せた。また、ハワイの自然への関心も高まったほか、1990年代はじめにはハワイの土地から生産された「大地の恵みを食べる」ことを基本にした、ハワイアン・リージョナル・キュイジーヌ(HRC)も誕生。旅の楽しみの重要な要素である「食」の面でも、ハワイならではの魅力を増していった。

 ハワイ古来の文化の基盤となっているのは、大自然に宿るマナ(神聖な力)への敬意だ。山や森、海を大切にし、自然のリズムに調和して生きることが、ハワイの人々の暮らし。このことは、1990年代後半から日本にも浸透してきた環境問題への取り組み、エコツアーへの関心にも繋がる。HTAが、ハワイの自然と歴史文化への関心を喚起することを強調したのは、21世紀のハワイへの旅を見通す取り組みだったといえるだろう。

 

「アニバーサリー」をフックに新しい旅行の開拓へ 

0129_031.jpg  HTAの発足で新展開を期待されたハワイ観光は、2000年に690万人の記録を達成しながらも翌2001年の9.11事件の影響で深いダメージを受けた。その後、観光客数は少しずつ増えていったが、昨年のアメリカ経済危機は今年、大きな影響を与えるだろう。日本でも不況の影響は深刻となると予想されるが、円高や燃油サーチャージの値下げなど、明るい材料も出てきている。

 こんなときこそ、付加価値と目的性の高い、新たな旅行形態を拓くチャンスでもある。目的のはっきりした、「旅の値打ち」が求められており、ハワイの文化や歴史を訊ねる旅やエコツアー、スピリチュアルなものに触れる旅が大きな動きになっていくだろう。立州50周年にあわせ、HTJが打ち出したキャンペーンの一つである「ハワイ50選」で人気スポットのほかに、自然、歴史や文化、スピリチュアルの観点で新スポットや「特別な場所」が選ばれていることがこの方向性を示している。

 現在人気のあるスポットでも、新たな意味付けをすることでワンランク上、またはリピーターの関心の喚起に繋げることができる。だろう。例えば、ハワイ島の「マウナ・ケア山の落日と星の観察ツアー」は定番といってよいほど人気があるが、この山がハワイの人々にとって祖先を敬う神聖な場所であることや重要なクアフ・レレ(祭壇)のある場所であること、星の観察で古代の人々が高度な航海術を育んできたことは、あまりしられていない。じっくりとハワイ文化の解説を受け、この山の持つスピリチュアルなパワーに触れることも、いまの旅行者には求められている。

 また、ウミガメと出会えるシュノーケリングの名所、ビッグ・アイランド(ハワイ島)のプウホヌア・オ・ホナウナウ国立歴史公園も、マナのパワーを感じさせる古代の聖地である側面を説明することで、ハネムーンや銀婚式といった結婚周年などに愛の誓いを新たにする特別な場所として紹介でき、これまでの自然や歴史、文化といった目的以外の訪問地ともなる。モロカイ島のカラウパパ、ラナイ島のフロポエ湾など、今まで日本人があまり行かなかった島や地域も、多品種少量送客の時代には注目される素材となるだろう。

 

新たな観光をつくり、伝える人づくりを 

  0129_041.jpg  新旅行を開拓するには、消費者に情報伝達も重要なポイントになる。ウェブサイトなどでの発信はさらに利用頻度が高まる一方で、直接消費者に応対する人の知識と熱意の重要性はかえって増していく。

 ハワイは日本人に「非日常体験」の目を開いてくれた場所だ。海外旅行の原点がここにある。最も身近な「外国」であるが、まだまだ知られていない場所でもあり、ハワイの可能性はこれから大きく広げることができるだろう。そのためには、航空会社やホテルなど現地サービス提供者の質の向上はもちろんだが、消費者と対応する旅行会社の販売や企画の担当者、現地のガイド、ガイド本やウェブサイトのライターなど、人的資源の育成も重視したい。今の時代にあったハワイの「憧れ」を醸成することも、新たなハワイ旅行の開拓のひとつだ。

 

今週のハワイ50選
ハワイアン・フード(ハワイ全島)
マウナ・ケア(ビッグ・アイランド)
プウホヌア・オ・ホナウナウ国立歴史公園(ビッグ・アイランド)
カラウパパ(モロカイ島)
フロポエ湾(ラナイ島)