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文化の祭典「セレブレーション・オブ・ジ・アート」

マウイ島カパルアでハワイアン・カルチャーとアートに浸る3日間
~「セレブレーション・オブ・ジ・アート」で伝統文化を体験~

0514_01.jpg 今年で17回目を迎えた「セレブレーション・オブ・ジ・アート」が、4月10日から12日にかけてマウイ島のカパルアで開催された。ラグジュアリーリゾートの「リッツ・カールトン・カパルア」が主催する恒例イベントで、「充実」「発見」「実感」の三拍子をそろえた、その名の通り"ハワイの芸術を祝う"ための盛りだくさんなプログラムが用意されている。地元でも高い評価を得ている同イベントは、カパルアといったハイレベルなリゾートエリアならではの特別な雰囲気とともに、古典から現代に至る選り抜きのアートやエンターテイメントに触れることができる格好の機会を提供している。宿泊者以外でも自由に参加が可能で、ハワイ・リピーターにもおすすめの素材といえるだろう。


「充実」のプログラムは静粛な儀式から

0514_02.jpg ハワイの伝統文化は今も生きている。観光産業を牽引する一大リゾートのなかであろうと、それは変わらない。3日間にわたるセレブレーション・オブ・ジ・アートでもその開会に先立ち、厳粛な伝統儀式が行なわれる。リッツ・カールトンのハワイ文化プログラムの責任者、そしてイベントの最高責任者でもあるクリフォード・ナエオレ氏によるアヴァ('awa)を飲む儀式だ。このアヴァという植物の汁と水からなるアヴァの水は、ハワイの四大神の1人であるカーネの水といわれ、その水を儀式に参加する人々が飲み、3日間のイベントにどのように関わっていくかを誓う。

 その後、場所はホテルのロビーに移る。イベントに関わるハワイの人々は全員建物の外へ立ち、オリ・コモ('oli komo)を唱え、主催者のナエオレ氏は、オリ・カーヘア('oli kahea)で応えている。オリ・コモとは、その場所に入ってもいいかどうかを問いかけるときに使う詞、オリ・カーヘアはオリ・コモに対し許可を与え、相手を迎えるときに使う詞である。全員が無事にロビーに集まると、今度はそれぞれがモオクーアウハウ(mo'oku'auhau)を唱えはじめる。これはいわゆる名乗りをあげる儀式で、家系を詞として唱え、自己紹介をするのだ。つまり、一連の儀式によって、人々はイベントの成功を誓い、その地に入ることを許され、自己紹介を終える。「これをもって、イベントを開催します」というナエオレ氏の声に、人々の歓声があがる。


ハワイの伝統文化体験は、新たな「発見」の連続

0514_03.jpg 芸術の祭典のなかで最も賑やかなのは、ハワイの楽器を作るブース。人気が集まっていたのは竹に穴を開け、鼻から息を吹き込んで奏でる楽器、オヘ・ハノ・イフ('ohe hano ihu)だ。子どもたちは竹にオリジナルの絵柄を描き、ずいぶんカラフルなものができあがっている。また打楽器であるパフ(pahu)は古いココナッツの幹をくりぬいて皮を張ったもの。頑丈な道具を使ってはいるが、熟練の技と時間のかかる作業だ。彫刻刀を幹にあて、カウイラというハワイにあるもっとも重い木の枝で打ち込んで彫る作業は、見ているだけで圧巻。

 特に、女性に人気があるのは、レイ・メイキングとラウハラの編み物だ。レイ・メイキングでは、ティーリーフという葉をねじったり、編んだりして作るスタイルを学ぶ。糸と針を使って花をつなぐ定番のスタイルに比べ、より伝統的なスタイルである。また、ラウハラ編みのクラスでは、ブレスレットを作る。編みの方法やラウハラの葉の濃淡を使って、模様を編み出したブレスレットは、お店で買ったものとは比べ物にならない、思い出深いお土産になりそうだ。

 さらに、ここでリッツ・カールトンならではのクオリティを感じさせる驚きのクラスを紹介したい。なんと、ニイハウ島の貝、ニイハウ・ププ(Ni'ihau pupu)でピアス、イヤリング、ブレスレットを作るクラスがあるのだ。ニイハウ・ププとは、住人しか入ることのできない島、ニイハウでとれる貝で、ハワイの人々がモミ(momi)、つまり「真珠」と呼ぶ、とても貴重で高価なものだ。ネックレスは数千ドルのものまでが存在し、世代を超えて受け継がれる代物なのである。そのニイハウ・ププのアクセサリーを自分で作ることができるこのクラスには、真剣な顔が朝から夕方まで並ぶ。年に1度のこの機会を待ちわびて記念のジュエリーを作る女性もいれば、恋人にプレゼントするブレスレットを作る男性もいるほど。  

0514_041.jpg虹色をめざして、豊かにくりひろがるアートの世界

0514_05.jpg セレブレーション・オブ・ジ・アートには毎回コンセプトが設けられているが、今回は「虹の島ハワイ(Hawai'i, he 'aina o na anuenue)」である。そのためか、特に色鮮やかさが目立つ、水彩画、油絵、アクリル画、版画などのクラスが人々を待ち受けた。指導にあたるアーティストはすべて、ホテル内にあるヴィレッジ・ギャラリーの人気アーティスト。それぞれのアーティストが工夫を凝らして用意した画材やテーマを使って描かれる、マウイ島百景、があっという間にテーブルいっぱいに並んだ。

 虹の島ハワイをテーマにしたのは絵画だけではない。ロビーで上演されるフラ、ライブミュージックはもちろん、数十分単位で行なわれるトーク・ショーも興味深いものばかりだ。クム・フラ(フラの師)のポノ・マーリー氏が率いるハーラウ・フラ(フラを学ぶところ)の「ナー・ヴァイ・プナレイ」は観客から手の届く近さで、古典のフラと現代のフラを披露。ダンサーたちの瑞々しさに拍手が沸いた。また、ハワイアンミュージック独特の発声法で、虹のように美しい歌声を響かせたのはカマカ・フェルナンデス氏。若い歌い手でありながらも、伝統的な発声法をしっかりと学んだ彼の歌声にあわせて、踊りだすクプナ(お年寄り)の姿が見られ、ホテルのロビーは和やかなひとときに包まれた。


アートの祭典は、参加者全員の「実感」とともに閉幕

0514_06.jpg 3日間のイベントのフィナーレとなるのがルアウだ。ルアウとは、ハワイの人々が親族や友人で集まるときや、訪れたお客様をもてなすときなどに、ハワイアンフード、そしてエンターテイメントを用意して行なう大宴会のことである。できる限り、昔からのハワイアンフードに近づけるため、カルア・ピッグ(蒸した豚肉をそぎハワイアンソルトと合えたもの)などは、シェフがホテルのキッチンで作るのではなく、ホテルから依頼をうけたハワイアン・ファミリーが泊りがけでホテルの庭に食べ物を蒸すための穴を掘り、石を焼いてオーブン(イム)を作り、昔ながらの料理方法で、10匹の豚や七面鳥、芋などを料理した。このようなこだわりのルアウの食事の評判は地元でも格別だ。旬のミュージシャン、フラ・ハーラウをそろえた質の高いエンターテイメントもあり、ルアウのチケットは前日までにすっかり売り切れるという。

 今回のエンターテイメントは、前出のカマカ・フェルナンデス氏、熟練のヘンリー・カポノ氏、そして、取りをつとめたのは、ハワイのアカデミー賞ともいわれるナー・ホク・ハノハノ・アワードの女性ボーカリスト賞を受賞しているナープア・グレイグ氏。彼女はクム・フラでもあり、彼女の率いるハーラウ・フラ「ナー・レイ・カウマカ・オ・ウカ」でポリネシア最大のフラの競技会メリー・モナークに出場するメンバーが、同競技会の直前に特別なパフォーマンスを見せた。

 旅先でイベントに参加するチャンスは数多くある。しかし、このセレブレーション・オブ・ジ・アートがもたらす、「誰もがアーティストになれる瞬間がある!」という実感にかなうものは少ないのではないか。そう思わせるわけは、イベントを提供するホテルやアーティストたちの惜しみのないシェア、"分かちあい"にある。アーティストたちが分かちあったのはアートだけではない。ホテルの昔からのハワイアン・ホスピタリティに対するこだわりはもちろん、彼らの経験を通じたmana'o(想い)をともに感じあうことで、「実感」は「共感」に変わっていく。その共感が、ハワイの伝統文化へのより深い興味を持つきっかけになるとともに、特別な体験として旅行をより印象づけるものになることは間違いない。


▽セレブレーション・オブ・ジ・アート
http://www.celebrationofthearts.org/
※セレブレーション・オブ・ジ・アートは、ハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)が、ハワイ文化を継承する優れたイベントなどに授与するカヒリ・アワードを2005年に受賞している。ニイハウ・シェルのクラスは材料費が必要だが、多くのプログラムが無料で参加が可能。

 

シェフの案内でハーブガーデン、果物畑を巡る

0514_07.jpg イベント期間中、リッツ・カールトンの看板シェフのマーク・マクドウウェル氏が彼の新しい試みを紹介するホテル内の小さな旅に連れていってくれた。「ホテルのレストランであっても、ハーブガーデンはキッチンの真横にあるべき」との言葉通り、彼のレストラン「ザ・バニアン・ツリー・レストラン」の横には、数十種類のハーブが育っている。なかでも、たくさん育てたほうがいいハーブは歩いて5分の別の敷地に、マンゴーやバナナ、パッションフルーツ、パパイヤなど、果物の木と一緒に育てられている。

 カパルアのリゾート内のレストランは、率先してオーガニックの野菜と果物を育てているほか、マウイ島の農家と連携し、マウイ島で育った野菜や果物を優先して使用している。新鮮で美味しい料理の提供とともに、島内の農業の発展、健康な食文化の形成、環境保護に、一体となって取り組んでいる。ホテル内の意識はとてもエコロジカルで、マクドウウェル氏は今、質のいいコンポストを作るために試行錯誤を続けている。

 今回のイベントでは、マーク・シェフがハーブガーデン、果物畑を案内し、ハーブを使って作る料理やハーブの育て方などを伝授。そして参加者全員がハーブの使い方の書かれた小冊子を受け取り、疲れを癒してくれる果物と野菜のスムージーを飲んで、ホテル内の小さな旅を終えた。

 なお、リッツ・カールトンでは宿泊客を対象に、同様のハーブガーデンツアーをスタートした。同プログラムは毎週月曜日の午後3時から実施している。

 

今週のハワイ50選
ハワイアンミュージック(全島)
ハワイアンフード(全島)

 

取材:神宮寺 愛