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キラウエア観光で火山の女神の神話をたどる

神話をモチーフに大自然と文化に親しむ
~古代ハワイアンの信仰に触れ、火の女神ペレに出あうキラウエアの旅~

1022_hwi_tai_01.jpg   ビッグ・アイランド(ハワイ島)を象徴するものといえば、今も活動を続ける火山、キラウエアだ。噴火が見せる壮大な景観だけでなく、この火口に住むといわれる火の女神ペレも、この島を興味深く魅力付けるテーマのひとつだろう。信仰心の厚い古代ハワイアンの時代から、今も自然のなかに息づくハワイ島の神々。その代表格であるペレはその美しさ、気性の激しさから、ハワイ島で最も人気のある女神といわれる。さまざまな伝承を有し、キラウエアで火山観光をしていると、おのずとペレを知る旅にリンクしていく。自然を通して古代ハワイの思想に触れてみれば、ひと味違ったハワイ島旅行となるだろう。


白い噴煙を上げるハレマウマウ

1022_hwi_tai_02.jpg ハワイ島のキラウエア火山は、マウナロア山の東側斜面から海岸に向かって広がる広大な溶岩大地を指し、一帯はハワイ火山国立公園に指定されている。火山の東斜面にあるプウオオ火口から噴火がはじまったのは1983年1月。その後も溶岩が流れ出す噴火は止むことがなく、今年で27年目に入った。一般的に旅行者が訪れるのは、周囲約12キロのキラウエア・カルデラだ。通常の観光は、カルデラを囲むように走る約18キロのクレーター・リム・ロードを一周するが、2008年2月からカルデラの中にある火口ハレマウマウが噴煙を上げているため、一部通行止めとなっている。

 ハワイ火山国立公園入口の手前にある町、ボルケーノ・ビレッジから西回りでクレーター・リム・ロードを進むと、通行止めとなっている手前にトーマス・ジャガー博物館がある。ここからカルデラを望むと、ハレマウマウが噴煙をあげているのがよく見える。この距離で見ていると危険を感じないが、1200度という灼熱の溶岩から噴出する煙の温度は、想像を絶することだろう。

 トーマス・ジャガー博物館には、火山活動のシステムや珍しい溶岩などが展示されている。興味深いのは、こうした展示品に火の女神ペレの姿が見え隠れすること。漆黒の髪と強く光る目、頭には赤い花のレイを着けているペレの肖像画は、まさに「奔放な美人」といわれる雰囲気をそのまま表している。また、珍しい溶岩の中にはペレの名がつくものもあり、とうもろこしのひげのような形をした溶岩は「ペレの髪」、米粒大の形をしたものは「ペレの涙」と呼ばれている。


ボルケーノ・ハウスにもペレの姿が

1022_hwi_tai_033.jpg 火山観光に欠かせないスポットといえば、「ボルケーノ・ハウス」もそのひとつ。1846年のオープンから火山を見守ってきたこのホテルは、カルデラのすぐ脇に立ち、古くはマーク・トウェインやルーズベルト大統領が宿泊したことで知られている。1895年から1960年にかけてホテルのオーナーだったジョージ・ライカーガス、通称アンクル・ジョージもペレを信じていた1人だ。

 彼は毎晩、好物のジンを飲みながら火口を見つめ、噴火が激しくなると、もっと激しくなるように火口にジンを投げ入れたという。今でもペレにジンを捧げる人々がいるのは、アンクル・ジョージにならってのことなのだ。ボルケーノ・ハウスのロビーには暖炉があり、その火は1877年から1世紀以上にも渡って燃え続けているという。暖炉の上には、ペレのレリーフが飾られており、ここでも火山とペレの深い関係を感じさせられる。

 キラウエア・カルデラ以外の火山観光としては、火口から東へ海に向かって下るチェーン・オブ・クレーターズ・ロードも興味深い。約32キロのドライブの終点では、道路の上に固まった溶岩の上を歩くユニークな体験ができる。ただし、所要時間は半日がかりとなるので、時間がない場合は溶岩でできたトンネル、サーストン・ラバ・チューブを歩こう。キラウエア・カルデラの東隣にあるキラウエア・イキ火口の側にあり、誰でも歩けるように整備されている。かつて溶岩が流れた薄暗いトンネルと出入口を覆う緑のジャングルのコントラストは、自分の足で歩いて体感したい風景だ。

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ペレの性格を表す伝承の数々

1022_hwi_tai_052.jpg ポリネシアの人々が海を渡ってハワイへやって来たように、ハワイの神々もまたポリネシアの神々に由来し、タヒチやサモアなどからやって来たといわれている。ペレもタヒチからニイハウ島へ渡り、カウアイ島、オアフ島、マウイ島を経て、最後にハワイ島へ行き着いたという。激しい気性と嫉妬深さで知られ、火山の噴火はペレの怒りであるとして、人々に畏怖の念を抱かせた。一方ですべての男性を魅了するという美しさから憧れを抱く者も多く、ペレはハワイ島で一番人気の高い女神といえるだろう。ハワイ島にはマウナケアの山頂に万年雪があり、雪の女神も4人いる。最も有名なポリアフはペレと反対に穏やかな性格とされているが、2人は相性が悪く、たえずいさかいをしていたそうだ。

 ペレの気性の激しさを物語る逸話に、オヒアレフアの花にまつわる悲恋の物語は欠かせない。かつて、ペレは若くてハンサムな男性オヒアに恋をした。しかし、オヒアにはレフアという恋人がいたため、ペレを拒絶。怒ったペレがオヒアを木に変えてしまったのだ。悲しむレフアを見かねた神は、レフアを赤い花に変えてオヒアの木に咲かせた。木の名前がオヒア、花の名前がレフアと別々なのは、こうした理由があってのことだ。オヒアレフアは真っ黒に覆われた溶岩大地にたくましく生き、森林を形成している。真っ赤な花が咲くのは春と秋の2回。花を摘むと、オヒアと離れ離れになって悲しむレフアが雨を降らせるといわれている。また、国立公園では訪問者が溶岩や植物を持ち帰ることを禁止しているが、その規定がされる前から、ハワイの人々は溶岩の欠片や大地に咲く花を持ち帰ることはしなかった。これらはすべてペレのものであり、溶岩を持ち帰ると不幸になるといわれているからだ。


古代ハワイアンの聖地を復元
プウホヌア・オ・ホナウナウ国立歴史公園

1022_hwi_tai_062.jpg 古代ハワイアンの信仰心の表れは、至るところにあるヘイアウでも知ることができる。ヘイアウとは、神殿または祭壇のこと。スタジアムほどの大きなものから手作りの小さなものまで、規模も形もさまざまだ。小さなヘイアウは、捧げ物をして収穫や戦勝を祈願したり災害の回避を祈ったりしたが、罪人の駆け込み寺として使用されたものもある。コナの南方に位置するプウホヌア・オ・ホナウナウ国立歴史公園はその代表格だ。かつてのハワイは厳格なタテ社会で、人々は生活のさまざまな場面に厳しいカプ(ハワイ語でタブーを意味する)を設けていた。男女は同じ食卓につけない、身分違いの結婚は許されない、王の影を踏んではならないといったもので、カプを破ると死が与えられることもあった。しかし、ヘイアウに逃げ込んで祈祷を受ければ、無罪となることができたのだ。

 ヘイアウは完全に復元されたものだが、周囲には再現したキイ(神像)が並び独特の雰囲気を放っている。このほか広大な公園内には、かつて聖域を守っていた石垣や大型のカヌーなどもひっそりと点在している。入口のビジターセンターで地図をもらうか、ガイドに解説してもらうと、古代ハワイアンの信仰や文化といった暮らしぶりがわかりやすいだろう。

  

今週のハワイ50選
ハワイ火山国立公園(ハワイ島)
マウナケア(ハワイ島)
プウホヌア・オ・ホナウナウ国立歴史公園(ハワイ島)

 

取材:竹内加恵