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教育旅行の実情

マーケットトレンド:教育旅行の実情を探る
~満足度の高いハワイに教育旅行の開拓を-その1~

100408_hwi_top.jpg 今や海外教育旅行を実施する学校は珍しくない。かつての右肩上がりというわけにはいかないが、新規開拓が見込める教育旅行は今後も可能性を秘めているマーケットだ。各国が教育旅行マーケットに積極的なプロモーションをかけるなか、ついにハワイ州観光局(HTJ)は今年、重点マーケットのひとつに教育旅行を掲げ、プロモーションに乗り出した。旅行会社にとっては情報の充実や受け入れ態勢の向上など、送客へのプラス効果が期待できる。ハワイ教育旅行は現在、どのような状況にあるのか、旅行会社の教育旅行担当者に話を聞いた。今回はハワイ教育旅行の実情を、次回は今後の展望と素材を紹介する。




学校側の意識変化

100408_hwi_01.jpg 2009年の新型インフルエンザ騒動を引きずってはいるものの、2010年の教育旅行マーケットは2008年並みに戻りつつあるというのが各社の感触だ。行き先を国内に変えた学校も多かったが、すぐに海外へ戻しているケースも多い。むしろ深刻なのは、現在の経済事情にあると各社とも声をそろえる。家庭による格差もあり、私立校といえども足並みをそろえるのが難しい時代になっている。

 海外教育旅行に対する考え方は、予算に上限がある公立の場合、すべてが予算ありきで決まるという。予算内で行ける場所やできること以外に範囲は広がらない。一方、私立ではこうした縛りがないため、学校のトップや責任者のひと声で行き先や内容が決まる場合も多い。生徒集めのために修学旅行の行き先を人気の観光地にするという考え方も依然残ってはいるものの、傾向としては行き先より内容重視になってきている。

 長年、教育旅行に携わってきた担当者は、教師の取り組み方にも変化がみられるという。アサヒトラベルインターナショナル社長の福田叙久氏は、「40年前は先生たちがもっと自由闊達で、海外修学旅行に対する熱い思いがあった」という。しかし、1988年の上海の列車事故後、学校の責任が重くのしかかり、自由度がなくなってきたというのだ。何をするにも保護者の顔色をうかがうようになったというが、これは教育旅行に限った話ではないだろう。

 一方で、教師の考え方が柔軟になったというのは、エイチ・アイ・エス(HIS)関東法人団体専門店事業部東京教育旅行セクション所長の鳥海弥氏。パッケージツアーに強い印象のある同社だが、「修学旅行に直接かかわる先生方は40代が中心で、個人的にHISを利用している人も多い。そのため当社の利用にも抵抗感がない」という。いまだに日系の航空会社やホテルにこだわる学校も少なくないが、旅行などで自ら海外経験をしてきた世代が修学旅行の実施を担うことで、利用する旅行会社や航空会社、ホテルなどへの柔軟な対応が期待できるといえるのかもしれない。


リゾート地から教育意義的にも注目

100408_hwi_02.jpg 海外教育旅行の行き先を統計でみると、オーストラリアが依然として強さをみせている。文部科学省の統計ではアメリカ(ハワイを含む)が2位だが、日本修学旅行協会の統計によると、ハワイは全体の5%から7%。行き先が多岐に渡っているとはいえ、十分な数字とはいえない。

 教育旅行先にハワイが選択されにくい理由として、リゾート地のイメージが強い点があげられる。観光のプライオリティが高く、学校のみならず旅行会社も選択肢のひとつとして見過ごしてきた感は否めない。逆に1970年代の方がハワイへの教育旅行は盛んであったという話も聞かれた。アサヒトラベルインターナショナルが初めてハワイへの教育旅行を実施したのは1970年。当時は海外旅行といえば行き先はハワイだったというのが、その理由だ。

 一方、これまでもハワイへ教育旅行を実施している学校もあり、一度ハワイに行くと継続するケースが多いという意見もあった。ここ7、8年連続でハワイへの教育旅行を実施している学校では、「学生にキラウエア火山を見せたいという先生の強い思いが理由で継続している」(近畿日本ツーリスト(KNT)団体旅行事業本部カンパニー首都圏営業本部販売課長・相笠博氏)というのだ。

 近年になって、ハワイ島マウナ・ケアの国立天文台ですばる望遠鏡を見学したり、ハワイ火山国立公園のトレッキングなどを取り入れた研修旅行が、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)などを中心に活発化し、ハワイにも教育的意義があるという見方に変わりつつある。KNT相笠氏は「今後、ハワイが教育旅行のブームになるのは難しいかもしれないが、英語圏を探している学校に提案してみる価値はある」という。


デメリットの改善に余地

100408_hwi_03.jpg そもそもハワイは、日本人にとって長年にわたり人気を誇るデスティネーションである。イメージのよさはもちろん、日本マーケットに多大なブランド力を持っているのも強みだ。また、インフラが整い、アクティビティが豊富で日本語対応も進んでいるほか、医療や治安の面での安心感が高いといった好条件がそろっている。これは、旅行会社からみると、保護者への責任を気にする学校側に安心してすすめられる強力な要素になるはずだ。

 しかし、一方、ハワイの教育旅行において、最大のデメリットは予算にある。アジアと比べるとエアもホテルもランドも高い。安いパッケージツアーが出回っている現状も、学校や保護者に費用が高額との印象を植えつけている。しかし、教育旅行が割高になるのは「下見や説明会、引率同行など、ひとつのツアーに時間と人材をかけているためで、それを考えれば決して高くはない」(アサヒトラベルインターナショナル福田氏)。そのため、「コストが高いなら専門性を高め、単なる修学旅行ではないという位置づけにすることで理解を得る方法もある」(トップツアー旅行営業本部教育旅行事業部課長・林正二郎氏)など、旅行会社側からのアプローチも大切だろう。

 さらに19時間の時差、受け入れ側の教育旅行に対する理解不足、教育的素材の不足といった課題もあげられた。時差を変えることはできないが、その他の点は十分に改善が考えられるだろう。日本の教育旅行に興味があるホテルなら、担当のコーディネーターを置いて窓口を一本化し、できれば日本人を担当にするといった配慮がほしい。現地ホテルとともに改善していけることも、まだまだありそうだ。

 また、日本とのかかわりの強いハワイならではの歴史をはじめ、独特の文化や自然といった観光素材が、多分に教育的要素を含んでいることを認識できるようにアピールしたい。それらをどんなプログラムで修学するのかという態勢づくりは、大いに課題となるところだ。次回は、具体的な素材と活用法を考え、ハワイ教育旅行の展望をまとめる。

 

数字でみる海外教育旅行
~学校数は増加傾向、行き先は高等学校が分散化~


100408_hwi_d1.jpg 文部科学省は今年1月、海外教育旅行調査「高等学校等における国際交流等の状況について」を発表した。これは、同省が1986年から隔年で実施しているもので、今回の発表は2008年度の数字だ。高等学校および中等教育学校後期課程の公立・私立を調査対象としており、外国への修学旅行については、表のような変化を示している。2000年に20万人近い数を記録したのを頂点に、それ以降は18万人前後に落ち着いているが、学校数では特に私立校が伸びている。

100408_hwi_d2.jpg 行き先は、日本修学旅行協会による海外教育旅行の実態調査をみてみよう。こちらは2009年度の数字で、アメリカとハワイを分けて表示し、訪問地を件数ベースで割り出している。中学校のベスト3はオーストラリア24%、韓国16%、ニュージーランド11%、高等学校のベスト3は韓国17%、オーストラリア12%、マレーシアとシンガポールがともに10%の順。ハワイは中学校が5%、高等学校が7%だ。新型インフルエンザの影響を受けた年度なので、一概にこの結果から傾向を見出すことはできないが、高等学校の方が訪問国・地域の数が多く、分散型となっている。


 

今週のハワイ50選
マウナ・ケア(ハワイ島)
ハワイ火山国立公園(ハワイ島)

 

取材:竹内加恵

写真提供:ハワイ州観光局