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教育旅行の可能性

マーケットトレンド:教育旅行の可能性を探る
~満足度の高いハワイに教育旅行の開拓を-その2~

 

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 リゾート地のイメージが先行するハワイだが、教育旅行にふさわしい学びの要素は各地に散らばり、ハワイでしか体験できないことも少なくない。今後、教育旅行を促進するには、何を課題とし、どのように推進していけばよいか。前回に引き続き、旅行会社の教育旅行担当者への取材で集めた意見をもとに、ハワイが持つ教育旅行先としての可能性を探ってみたい。

 

            
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ハワイならではの教育旅行素材

100422_hwi_01.jpg 都内の某私立高校では、5年連続で500名規模のハワイ修学旅行を実施している。日程は7日間で、行き先はオアフ島とハワイ島。この学校を担当するJTB法人東京の教育第一事業部営業第二課の日下部亮介氏は、「ハワイ特有の歴史・文化・自然を体験できることが継続の理由になっている」と話す。

 ハワイには悠久の歴史を感じさせる建造物は少ないが、日本とは歴史的な関わりがあり、独特の文化が根付いている。例えば、パールハーバーではハワイ側の視点で戦争を見つめることができるし、ハワイ・プランテーション・ビレッジでは日系移民の歴史と文化を知ることもできる。

 ポリネシア・カルチャー・センター(PCC)の「カイクアアナ・プログラム」も評価の高い素材だ。現地の学生と一緒に班別で行動する、英会話の実践と国際交流を目的としたプログラムで、これを教育旅行で実施したいという要望も聞かれた。また、史跡をたどる3キロ程度のワイキキ・ヒストリック・トレイルを班別行動に取り入れれば、料金をおさえることも可能だ。このほかにもハワイ島の地熱発電所、オアフ島の本願寺など、歴史や文化、自然を伝える興味深い素材は多い。


双方の密なコミュニケーションで市場開拓を

100422_hwi_02.jpg 一方で、教育旅行の可能性がある素材があっても、旅行会社からは「これらを大型グループでどう修学するか」(日本旅行・大阪教育旅行支店支店長・高橋秀実氏)など、学習ポイントやサポート体制など、教育旅行特有の情報が不足しているとの指摘があった。プログラムやインストラクター、日本語ガイドのさらなる整備が課題という点は、各社共通の意見だ。今後は、旅行会社とハワイ州観光局(HTJ)が二人三脚で素材を吟味して開拓していくと同時に、現地の受入企業に日本の教育旅行の特性を伝えていかなくてはならない。そのためには双方が根気強くコミュニケーションをとり、調整していく必要があるだろう。地道に教育旅行の実例を増やし、やり方や目的次第で教育旅行にも適していることをアピールすることが、ハワイを教育旅行のデスティネーションとして成熟させていくことになるはずだ。

 また、教育素材のみならず、宿泊や食事といった旅のベースとなる部分も重要。前述の500名規模の修学旅行では、現地ホテルの協力を得て食事にこだわった。ビュッフェのメニューを増やすより、同じ肉料理でもいろいろな味で楽しめるようソースの種類を増やし、味付けを日本人好みにアレンジする工夫で、学生はもちろん教師陣にも好評だったという。同校は次年度もハワイへ行くことが決定しており、日本側とハワイ側双方の細やかな対応も継続の後押しにつながっている。

 ただし、忘れてはならないのは送客するための航空座席数の確保だ。もともとハワイでの教育旅行は旅行会社からみると、「路線が太いことが一番」との声も多く、直行便で大型グループを運べる利便性が大きなメリットとなっている。ただし、航空会社が収益率向上を目的に路線を集中するなかで、すでに各方面で減便が続いた関西では「海外へ教育旅行の目を向けたのは西が早かったが、現在は国内にシフトしている傾向にある」(日本旅行・高橋氏)との指摘もある。日本各地からの視点で考えれば、路線確保に向けた調整や働きかけも、今後の求められる課題といえるだろう。


目的や理由が教育旅行先へ導く

100422_hwi_03.jpg 「教育旅行はデスティネーションを売るのではなく、その学校が何をしたいかによって導いていくもの」(アサヒトラベルインターナショナル社長・福田叙久氏)である。教育的価値のある素材をそろえ、受け入れ態勢を整えたとしても、それだけでハワイへ誘致をしたり、他の競合デスティネーションと差別化をはかったりするのは難しい。ハワイで実施する確固たる目的やハワイでなければならない理由が必要だ。

 例えばこんな提案も飛び出した。ハワイのコーヒーは特産物であると同時に、産業が拡大した背景には日系人を筆頭とする移民の労働力があったという歴史的なつながりの感じられる場所だ。そんなゆかりを踏まえてコーヒー農園を見学し、そこにコーヒーの苗を植樹する。次に訪れる後輩が収穫したコーヒーを味わい、また次の後輩のために植樹する。そんなサイクルを作れば、連続してハワイに行く理由が強まり、リピートする可能性が高まるだろう。

 また、デスティネーションの特徴以外の事柄が、ハワイに行く理由なった例もある。整体や指圧を学ぶ専門学校が、ハワイにある整体・指圧機関を訪ねる教育旅行を実施したのだ。もともと学校同士のつながりがあったのが、実施を決定した理由だ。海外教育旅行をする目的を探していたら、それがたまたまハワイにある学校訪問になったという。こうした交流や現地視察を切り口とする場合、ハワイ側からも現地の学校や機関、企業などとゆかりのある学校を発信していくことで、日本側がハワイで教育旅行をするきっかけに気づく可能性もあるだろう。


「心」の費用対効果が高い

100422_hwi_04.jpg 実際にハワイへ行った学生たちのアンケートを見ると、いずれも満足度が高いという。南国のビーチリゾート、あこがれのハワイに行くことができたうれしさや観光要素が強いことがその要因だ。「結局、感想の多くは楽しかったという一言に集約されてしまう。しかしこの『楽しかった』が実は大事」(近畿日本ツーリスト(KNT)団体旅行事業本部カンパニー首都圏営業本部販売課長・相笠博氏)なのである。

 何十年も教育旅行に携わってきた担当者から見て、学生の反応は昔も今も変わらないそうだ。一番感激したことが海に沈む夕陽だったり、火山の迫力に驚いたり。ハワイ島まで足をのばす学校は多くはないが、「多感な年頃の学生が、ハワイ島のダイナミックな自然から感じるものははかりしれない。それだけでも価値がある」と、JTB日下部氏は話す。

 教育旅行は、その学生にとって最初の海外旅行となることが多い。海外旅行の印象を植え付け、将来リピートするかどうかという意味でも、旅行会社の責任は大きい。「確かに教育旅行は費用がかかるが、心の費用対効果は高い」(JTB日下部氏)というのも、ハワイをアピールする上で重要なポイントだ。

 

 

ワイキキ・ヒストリック・トレイル
~町歩きでハワイの歴史や文化を探訪~


100422_hwi_05.jpg ワイキキからアラモアナにかけて23の史跡をたどるト
レイル。カラカウア王像やリリウオカラニ女王邸跡、王
室所有のヤシの林があったヘルモアなど、ハワイ王族ゆ
かりの地や建造物のほか、サーフィンの父デューク・カ
ハナモク像やワイキキ美化計画のために造られたアラワ
イ運河などもあり興味深い。この史跡を巡るウォーキン
グを班別行動に取り入れれば、ワイキキ散策が同時に楽
しめる。ガイドや移動手段の手配、施設利用料などの費
用がかからないのも魅力だ。
URL:http://visit-oahu.jp


カイクアアナ・プログラム
~英会話に挑戦、キャンパスライフも体験~


 ポリネシア・カルチャー・センター(PCC)が提供する英会話実践および国際
交流プログラム。学生8人に対し、現地の学生1人がついて、ブリガムヤング大
学ハワイ校、ライエの町のスーパーマーケット、PCC施設などを案内してもら
うという内容だ。大学では図書館を見学したり、カフェテリアでランチをとる
など、アメリカのキャンパスライフを疑似体験できる。現地学生に密着し、約
6時間の英会話実践ができるチャンスであり、8人ひと組というサイズも、班別
行動には最適だ。
URL:http://japan.polynesia.com

 


 

 

今週のハワイ50選
ワイキキ(オアフ島)

 

取材:竹内加恵


 

写真提供:ハワイ州観光局