ITソリューションの有効活用(7) (2/2)

法人営業に威力を発揮するクラウド型CRMツール

クラウドコンピューティングの事例

 顧客関係管理(CRM)ツールは、企業向けクラウドで特に発達している分野である。前述のメールやグループウェアも同様だが、このような社内のコミュニケーションやコラボレーションのためのツールは、ネットワーク上にアプリケーションを展開することで得られるメリットが非常に大きい。1日中社外を出歩く営業スタッフにとって、会社に帰らなければ見られない営業支援ツールなどは業務効率を非常に落としているのではないだろうか。特に最近はスマートフォンなどの普及で、出先で利用できるCRMツールはさらに高機能化して効果を発揮しつつある。

 日本でいち早く、2000年からクラウド型のCRMソリューションを提供しているセールスフォース・ドットコムは、既に国内で二千数百社の顧客を持つ。その中には郵便局やメガバンクなどの名だたる日本企業も含まれており、信頼性の高さが伺える。このような大企業に採用される理由としては、コストパフォーマンスや信頼性もさることながら、オンライン上で柔軟に機能の拡張ができ、将来のビジネスや組織の変更に対応しやすいというクラウドのメリットが大きいようだ。



パース(PaaS)を利用すれば短期間でのシステム立ち上げが可能

 セールスフォース・ドットコムは、顧客関係管理や営業支援のアプリケーションだけではなく、最近はパースと呼ばれるクラウド型アプリケーション実行環境の提供にも力を入れている。パースとは、ソフトウエアを構築および稼働させるためのベースとなるプラットフォームをインターネット経由のサービスとして提供するもので、プラットフォーム上で構築したサービスを自分の顧客に提供することが可能となるものである。このツールを利用すれば、ユーザーは独自にクラウド型アプリケーションを構築することが可能になる。

 最近では、政府による「エコポイント」制度のポイント登録や商品交換のネット申し込みのシステムをこのセールスフォースのプラットフォーム上に、たった1ヶ月でシステムを構築したことが有名になった。その驚異の開発のスピードは、必要なインフラがクラウド上に最初からすべて整っているパースならではだが、クラウドを利用する利点はそれだけではなかった。短期間に国民の多くが利用すると想定され、その負荷の予測が難しい中で、サーバーの設置台数などを考慮しなくても、大規模なデータセンターを必要な分だけ利用できることもクラウドが選択された大きな理由だろう。



基幹システムはこれからもオンプレミスが中心

 クラウドのメリットを考えると、既存のシステムはすべてクラウド化すればいいのではと、考えてしまうかもしれないが、クラウドテクノロジーは旅行ビジネスにおけるシステムをすべて置き換えられるような存在ではない。

 旅行業においては、まずはコモディティ化したアプリケーション、つまりメールやグループウェアなどを、早くクラウド型のシステムに移行してしまうことが重要だ。保有しているデータ資産をそのまま移行でき、コストも削減できるなかで、移行しない理由を見つける方が難しいだろう。しかしながら、現状においては企業ではシステムを「社内」に導入して利用するかたち(オンプレミス)が一般的であり、業務の基幹系においては今後もオンプレミスが、主流であることに変わりない。

 なぜなら、基幹系に求められる要件については、信頼性やセキュリティが厳しい場合が多く、システムに発生した問題に対しては自社で迅速に対応することが求められているからである。もちろん、基幹系にクラウドを取り入れようという企業も現れるだろう。しかし注意しなければならないのは、基幹システムのインフラにクラウドを取り入れるということは、インフラ部分について自社ではコントロールできないブラックボックスを抱えることになるということなのだ。また、インフラ構築にまつわる開発ノウハウなども失うことになりかねない。

 今後のシステム構築にあたっては、独自のインフラとクラウド利用のどちらが適切なのか、最善なのかをシビアに見極めることが必要とされるだろう。