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日本のMICE推進施策に見るビジネスチャンス

MICEインバウンドは発展途上の大きなマーケット
国がMICE誘致に動き出した今がビジネスチャンスに

090911_miceb_01.jpg 観光庁は、7月に「MICE推進アクションプラン」を策定。国際会議だけでなくMICE全体の取り組みを強化し、来年2010年は「Japan MICE Year」として"MICE"の名のもとにプロモーションを展開する。訪日客2000万人実現に向けたインバウンド戦略の一環で、国の政策としてMICE推進に動き出したわけだが、実際にどう展開していくのか。アクションプランの施策から旅行会社のビジネスチャンスを探る。

 
国際会議からMICE全般へ施策の転換

090911_miceb_02.jpg 今年3月、イベント会社、見本市や会議の主催会社、旅行会社、展示会場運営会社、コンベンションビューロー、自治体、業界団体など、国内でMICEの分野に先進的に取り組んでいるメンバーが集まって、「国際交流拡大のためのMICE推進方策検討会」が立ち上がった。訪日客2000万人を実現するために、どうMICEに取り組むか議論が進められた。

 「この検討会のなかで、MICEの意義に対する理解が得られないという意見が多数出て、観光庁が音頭を取って重要性を広くアピールしてほしいという注文があった」。そう話すのは観光庁MICE推進担当参事官付観光渉外官(MICE・国際機関担当)の竹原勇一氏だ。検討会は4回にわたって開催され、話しあいで出たさまざまな意見をもとに、国や関係主体が果たすべき役割や活動内容などを具体的にまとめた報告書が、7月29日に策定された「MICE推進アクションプラン」である。

 これまで国によるインバウンドの誘致政策は、MICEの「C」の部分、国際会議の誘致に特化された形で行なわれてきた。それは、2006年に安倍元総理が施政方針演説で「主要な国際会議の開催件数を2011年で5割増にする」という目標を掲げたことにさかのぼる。この方針にしたがって国は国際会議の誘致を進めていた。しかしながら、有識者による観光立国推進戦略会議において2008年6月、「2010年にインバウンドを1000万人にするという従来の目標を、2020年に2000万人へ」とより意欲的な目標が掲げられたことから、そのための戦略が議論され、「国際会議だけでなくMICE全般に施策を広げていくべき」という提言がなされた。これを受けて早速、前述のMICE推進方策検討会が開催されることになった。

 「日本文化の発信、日本のプレゼンスの向上、ソフトパワーのアピールという意味でMICEは重要な要素。日本の各地域にとってもMICEを起爆剤に活性化につながる可能性がある」と、竹原氏はMICEの意義を説明する。2009年度の国際会議名目の予算額3億6000万円は、来年度からは会議以外のMICEに使える部分が増えることになる。


2010年はMICEイヤーとしてプロモーション

090911_miceb_03.jpg アクションプランは、(1)MICE全体のプロモーション、(2)誘致・開催に関する環境整備・支援、(3)MICEを支える基盤の強化、環境の整備、の大きく3つに分けられる。ここで国際会議だけでなく、MICE全体としての取り組みを強化することを明らかにしている。

 プロモーションのハイライトは2010年の「Japan MICE Year」のピーアール活動だ。竹原氏も「来年をMICE元年に」と意気込む。「これまで国際会議向けにやっていた見本市への出展、広告、セミナー開催などをJapan MICE Yearという冠のもとにやる。日本がMICEの適地であることを国内外にアピールすることが究極の目標」。さらに、外国人旅行者受入れに貢献する人を対象としたYokoso!Japan大使にも新たにMICE分野での大使を任命する。「MICEの分野で長年活動してきた人が対象になる。MICEがスポットライトを浴びることでMICE業界の励みにもなる」と竹原氏。これは第5次のYokoso!Japan大使として、今年の秋に決まる予定だ。

 MICE推進方策検討会は6月で一区切りとなったが、関係省庁やMICE関連産業界、学識経験者からなる分野横断的なMICE連絡協議会も、今年中に立ち上がる。「旅行業界など関係業界含めて、MICEがひとつのビジネスのターゲットであるという認識を持ってもらうために情報の共有をはかる」という。

 誘致・開催に向けた支援もMICE全般に広げていく。国際会議開催時に交流事業を併催するための支援も、来年度はMICE案件にも適用範囲が広がる。一方、日本初の国際会議の育成に向けた支援も行なう。現在、日本の学会も海外から研究者を呼んで国際学会にしたいという思いがある。将来的に国際会議につながる可能性のある会議に対して、海外から研究者やキーノートスピーカーを呼ぶための支援も来年度には実施される。また、ユニークベニューもMICEの重要な要素となるが、使いづらいという声も聞かれる。「法令の問題であれば所管省への働きかけ、施設管理者の裁量の問題ならMICEの重要性をアピールしていくなど、問題点に具体的に働きかける用意がある」と竹原氏は前向きな姿勢を示す。


イベントや会議を組み込んだ商品造成を期待

090911_miceb_04.jpg MICEの誘客にも取り組む。オリンピックのような誘致型の国際大会と異なり、通常のスポーツイベントや見本市はだんだんと成長していくもの。そういった「E」をきっかけにインバウンドを集めることが目的だ。「大きな集客力を持つ見本市やイベントの集客力をさらに強化していきたい。そのために積極的な情報発信をしていく」と竹原氏。特に見本市の場合、開催にともなう経済波及効果も見逃せない。例えば、リード・エグジビション・ジャパンが主催する国際宝飾展の場合、出展社とバイヤーの実消費額が50億円、商談額が150億円。開催ごとに雇用も創出している。同社が集客する年間90万人のうち海外からの参加者が3万5000人。同社の国内シェアは全体の2割なので、単純に見積もっても3万5000人の5倍のインバウンドが見本市に訪れている計算になる。見本市参加者は一般観光客よりも消費額が大きいのもポイントだ。

 しかしながら、見本市や会議に出席しただけで帰ってしまうのが現状。そこで、観光庁が旅行業界へ期待するのが"イベントなどへのアクセス性の向上"だ。「早い段階で観光情報を提供すれば、滞在を延ばすことが考えられる。旅行業界はイベントや会議を組み込んだ旅行商品の造成を強化してほしい」。竹原氏は続ける。「MICEインバウンドは発展途上のビジネスモデルだが、潜在的に大きい可能性を持っている。旅行業界はアウトバウンド同様、インバウンドのMICEにも力を入れてほしい。ターゲットが絞れるため、攻めやすい分野だと思う」。


基盤強化のための実態の把握へ

090911_miceb_05.jpg さらに、MICEを支える基盤の強化として、実態を把握するための施策を進めていく。MICEを普及させるためには根拠となる経済効果を示す必要がある。しかし、企業が実施するミーティングやインセンティブは統一的に統計が取られてなかったため、これまでMICE全体を定量的に表した公的な統計がなく、市場規模が捉えにくかった。現在、MICEの市場規模を把握する資料として引用されるのはイベント産業振興協会が出している『国内イベント市場規模推計結果報告書』。これによると、2007度はコンベンションが2300億円、MとIを除き、コンベンションとイベントを合計した市場規模は2兆7000億円。ちなみに、2005年の168件から2011年には5割増の252件をめざす、という国の目標値は国際団体連合(UIA)の基準に基づく。

 国としても、インセンティブの実態を把握するため、2006年に予備的調査を実施した。「日本旅行業協会(JATA)経由で各旅行会社に聞いた結果、年間189件、1万7000人となった。ただしJATA加盟会社が対象なので実態よりも少ない」と竹原氏は話す。「これにMとIが加わるMICE全体の市場規模は、相当大きなビジネスマーケットといえる。どういう形で調査するかは悩ましいところだが、今年度中に施行調査をする」。


新興国発の業務渡航の開拓も

090911_miceb_06.jpg MICE人材の育成も行なっていく。「日本では、ミーティング・プロフェッショナル・インターナショナル(MPI)や国際PCO協会(IAPCO)などMICE関係の国際機関との関係がまだ構築されていない。競合国は総会に出席して人的なつながりを作ることでMICEを誘致する可能性が格段に広がっている」と竹原氏。観光庁ではIAPCO、国際会議協会(ICCA)などから講師を招いてコンベンションビューローやPCO(会議運営専門会社)などを対象に研修をしているが、来年度は回数が3回から4回に増える。また、インセンティブやミーティングを日本でしてもらうためには、グローバル企業への働きかけも重要だ。「各省庁と主な経済団体が入った『観光立国に関する官民協議会』でもMICEの話をして、経済界にも認識を持ってもらう」と話す。

 旅行業界にとっては、国のいう「旅行商品の造成の強化」はもちろんだが、アクションプランの主要な実施担当者となる、観光庁などの関連省庁や日本政府観光局(JNTO)などの関連団体、自治体やコンベンションビューロー、見本市主催会社などに積極的に働きかけていくことが必要だ。インバウンドは着実に伸びており、新興国の経済成長をかんがみれば、業務渡航の分野でもインバウンドを考えていかねばならない。日本が先行する新エネルギー関連技術の見本市には海外から4000人から6000人もの来場者が訪れている。こういったグローバルな人の流れに対応するには、見本市やSITイベント、団体旅行から報償旅行までこれまでMICEのアウトバウンドで培ったノウハウがいかされるのではないか。首都圏だけでなく、各地方でMICEが活発になれば、さらにマーケットは広がる。国が広範囲にインセンティブやイベント、見本市への誘致に力を入れはじめた以上、MICEのインバウンドに動きが出てくるはずだ。旅行会社はこの流れに乗り遅れないようにしたい。

 

文:平山喜代江