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インタビュー:ジェイティービー 旅行マーケティング戦略部 久家 実氏

成功のキーワード(2) 
市場に対する価値提供

久家さん1top1.jpg ジェイティービーの旅行マーケティング戦略部営業戦略担当マネージャーの久家実氏は、入社以来17年、法人営業担当として大手企業のMICEに携わってきた。団体旅行専門支店の営業部門で2ヶ所の現場を経験したのち、現在は法人営業戦略を担当している。現場で数々のインセンティブツアーや企業イベントを手掛けてきた同氏は、MICE事業をどう振り返り、どう予測するのだろうか。長年の取り組みから見出したポイントを聞いた。

 

Q.MICE市場に重要なニーズの変化はありましたか

 かつて日本社会が潤っている時代と比較すると現在は、見た目の派手さよりも、提供されたサービスに対する「効果」が重要だ、という認識が広まっているのではないでしょうか。インセンティブツアーを実施しても、結果としてその企業の実績が向上しないのであれば、企業がインセンティブツアーに投資する必要はありません。むしろボーナスを上げるとか、設備に投資するとか、他の方法を考えるでしょう。わざわざインセンティブや企業イベントを実施するからには、それだけの「効果」が期待されています。

 MICEはあくまでも手段です。例えば企業がインセンティブツアーや全社会議を実施するにあたっては、「社員のモチベーションをあげることで会社の業績向上につなげる」、「情報やビジョンを共有して今後の業務に活かす」といった目的や課題があるはずです。ただ単に集まっているだけでは、顧客の課題は解決できません。重要なのは、そういった顧客の目的や課題を解決する、「価値提供」をすることです。

 

Q.「価値提供」についてさらに具体的に教えてください

久家さん5_2.jpg たとえば、グローバルに展開している、ある企業が一ヶ所に集まり会議を開く費用が1億円かかるとしましょう。しかし、参加者が顔をあわせ、社長から会社の方針を確認し、情報が共有され、その後の社員の行動が変わることによってその企業の収益が100億円増すとすれば、1億円を払う価値がありますよね。そうした価値を提供できないのであれば、メールのやりとりやテレビ会議で事足りるはずです。旅行やMICE事業に限ったことではありませんが、お客様に対して価値が提供できないのであれば、必要性はないということです。

 当社でも、MICE営業の人材育成は研修だけでなく自分達が実際に参加・体験できる場として、全社の法人営業マンが集まるコンベンションを開催しています。このコンベンションで紹介した事例やその体験そのものが、翌年どこかで実行されている事実があると、そのコンベンションの「効果」を感じます。

 このような、"MICEの実施には効果がある"という事実、つまりMICEの「市場に対する価値提供」が、成功のキーワードになるのではないでしょうか。

 

Q.「効果」を実感してもらえるようなMICEを実現するには?
 
 MICEという大きなくくりでは一概にはいえませんが、例えばインセンティブツアー・イベントであれば、ポイントのひとつは、「ホスピタリティ」でしょう。

 ここでいう「ホスピタリティ」とは期待を上回る、お客様が予想する以上のサービスや体験のシーンの提供です。個人的な経験では、それに必要なのは創造力とチャレンジ。通り一遍のことをしても面白くありません。普段考えられないことを考えていかないと。開催場所自体のサプライズもあるし、演出や企画によるサービスもあります。時にはとんでもないことを思いついたりもするのですが、「できないな」とあきらめるのではなく、それができるようにするにはどうすればいいのか、を考えます。

 現場にいた当時は、アイディアに頭を巡らせるのが楽しみでしたね。予期していなかったことがお客様の前で具現化するときに、盛り上がる瞬間や共感を得られる瞬間があるでしょう。あれが仕事をしていて一番の醍醐味でした。「こんなことができるの?」とか、「こんな演出アリ?」という驚きのサービス。そういう発想は若い人のほうがどんどん考えられるのではないでしょうか。


Q.MICE市場の今後をどう見ていますか

久家さん7_2.jpg 当社では以前からさまざまなMICEを取り扱ってきましたが、MICEという呼び方は特にしていませんでした。「MICE」という用語が浸透してきたのは、2000年以降ではなかったでしょうか。この言葉の影響は旅行業界に、旅行ではない領域があるということを知らしめたと思います。しかし現在のところ、旅行業界のMICE全体を見渡すと、MICEといっても中身は「食事・交通・宿泊」の手配にとどまり、単なる団体旅行と大差ない状況も少なくありません。

 MICEには、コンセプト構築、会場確保、来場者の募集、輸送計画、イベントの運営管理、装飾、演出、スタッフ管理、警備、協賛企業誘致、映像製作、さらに終了後のお礼状送付・報告書作成など、ほかにもまだまだ多様な要素があります。このようなサービスをお客様の課題解決の手段としてワンストップで提供できてこそ、その価値分の対価をいただける。それこそがMICE事業といえるのではないでしょうか。

 もはや「食事・交通・宿泊」の手配だけに手数料が払われる時代ではないと思っています。当社ではMICE事業のなかで、何が自社の強みでお客様に価値を提供できるのか、分析していくつもりです。

 またJTBグループでは、より現場に近い各事業会社でMICE事業を主体的に推進しています。われわれグループ本社は事業推進がスムーズに、そしてサービスが高度化するように、事例の共有化や市場分析、システム、人材育成などを担っています。グループ内にはMICE事業に関わるさまざまな会社もありますから、外部に委託せずにグループ内での完結も可能であると考えています。


ありがとうございました

 

取材:福田晴子