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フィリピン MICEトラベルマート開催し、誘致を強化

誘致に乗り出すフィリピンの潜在性
近場の新デスティネーションとして期待

0807_top1.jpg 観光を主要産業としてとらえ、戦略的な振興策を打ち出す国や地域が増えている。単なる観光プロモーションではなく、メディカルツーリズムやスポーツ観光、人材開発・育成、投資・企業誘致、教育ツーリズムなどが観光振興の潮流にあるなか、フィリピンも本格的なMICE誘致に乗り出した。世界各国からバイヤーを招き実施された「トラベル・エクスプロア・フィリピン」には、日本からも旅行会社のMICE担当者らが参加。首都マニラのほか、かつてサミット開催地にも選ばれたセブを視察して、フィリピンでのMICEの可能性をさぐった。

 


マニラ、ハード面の設備整う

 

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 「トラベル・エクスプロア・フィリピン」のなかでもメインとなったのは、フィリピン観光省が主催したバイヤーマッチング「MICEマート」だ。百を超えるフィリピン国内のホテルやツアーオペレーターなどがサプライヤーとして集結し、15分間のアポイントメント形式でバイヤー側に自社のサービスや特徴をピーアールした。インセンティブツアーや会議、イベントをマネジメントする現地ツアー会社であるイエロー・バード・ツアー代表のナジャ・トリンチェラ氏は「われわれはMICEでなく"TIME"といって(Tはtourの頭文字)販促している」と語り、従来のツアーオペレーションの延長線上にMICEを位置づけていることを感じさせる。

 

 エクスプロア会期中には、MICE振興を目的に設立された観光省の外郭組織「フィリピン会議観光公社」がホスト役となり、欧米や中東のほか、近年、観光客数の増加が著しい中国や韓国、インドなどのバイヤーを招いて、昼食会やフェアウェル・パーティが催された。いずれにおいても、フィリピンならではの食やサービス、遊興イベントで実効性をアピール。昼食会場となった「エドサ・シャングリ・ラ・マニラ」はじめ、マニラにはファシリティの整う大型ホテルが多く、ホテル利用において他国と遜色ない。

 特に類をみない演出をみせたのは、巨大ショッピングモールを会場にしたフェアウェル・パーティ。マニラの中心地マカティ地区から車で約40分。近ごろオープンした「イーストウッドモール」は、世界の有名ブランドやレストランが軒を連ねる新興商業地だ。三層吹き抜けの中央エントランスに広がるイベントスペースを会場に、着席式のブッフェで歌やダンスショーが繰り広げられた。

 「日本なら消防法の関係で、イベント内容などにも制限がかかるから、こうした会場でのイベントは意外性が高い。各層には一般の買物客がギャラリーとなって身を乗り出す姿がみられ、イベントを盛り上げる相乗効果がある」と語るのは、日本から参加した近畿日本ツーリスト(KNT)海外旅行部の橋本崇氏。ショッピングモールでのパーティは日本人にはあまりない発想で、評価の声も高い。九州海外仕入ホリデイセンターで働く橋本氏は、「フィリピンはハード(施設)が整うわりに、それが広く知られていない。英語がメインランゲージでホスピタリティの精神も高い国だけに、潜在性を感じる」と語る。

 

マニラ・ベイエリアに建つコンベンションセンターSMX 

090807_03.jpg  マニラ湾岸に位置するコンベンションセンター「SMX」は、ショッピングゾーンやレストラン、シネマコンプレックス、科学博物館、スケート場などを擁するショッピングモール「モール・オブ・アジア」に隣接しており、利便性が高い。トレードショーや各種エキシビションに格好の大型コンベンションセンターで、総面積は約4万7000平方メートル。三層構造で、1階部分はカーゴ直結が可能なデリバリー・ベイのつくりになっている。3階には大小5つのファンクションルームがあり、ミーティングルームやキッチンも併設。2階部分のペデストリアン・ブリッジで、ショッピングモールに連絡する。

  すべてのファンクションルームを一括利用してシアター形式で7242名、スクール形式で4050名を収容し、終日(午前8時~午後5時)の使用料は53万5000ペソ(約107万円)。ミーティングルームは、ロの字の会議で24席の設置が可能な93平方メートルの部屋が終日使用で1万4000ペソ(約2万8000円)と、バリューフォーマネーを期待できる。シニア・アシスタント・バイスプレジデントのデクスター・デイトー氏は、「おもにローカル企業によるトレードショーの利用が多いが、今後は外国企業の国際会議などを積極的に誘致したい」と語る。

 SMX、先述のショッピングモールなどの懸念すべき点は、市中心から移動する際の交通渋滞だ。特に雨季ともなればラッシュアワーの道路混雑は避けがたく、所要時間を倍みる必要がある。そこで、どうしてもホテルのボールルームなど、宿泊との抱きあわせのプランでキャパシティをさぐることになる。「ホテルのほうが、コントロールがしやすくサービス面や導線で勝る傾向にある」というMICE担当者の声も聞こえてくる。

 


セブは近場ビーチの選択肢のひとつに

 

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 日本からの参加者は、フィリピン有数のリゾート地・セブでのMICEを評価する声が高かった。特に印象的だったのはJTBビジネストラベルソリューションズの小泉健氏の「セブは、グアムやバリ島、プーケットなどのビーチリゾートを求める企業オーガナイザーに、選択肢のひとつとして提案できるデスティネーション」という発言だ。「企業イベントの企画担当者は、提案する魅力的な開催候補地に飢えている」のが、その理由。そうしたなかで、セブのMICEでの可能性は未知数ではあるものの、ある程度の受容条件は整っていると分析する。

 

 2007年に開催された第2回東アジア首脳会議(セブ・サミット)のメイン会場となったセブ国際会議場は、総床面積が1万7000平方メートル強。駐車場は600台の収容が可能だ。ただ、海風や熱帯性の気候が建物に負荷を与えているのか、ホール以外の小部屋は特に傷みが散見された。台風の接近を理由に開催時期が延期されたことは記憶に新しいが、急ピッチの作業が内装に表れたのかもしれない。

 ファシリティ全般が充実しているのが「シャングリ・ラ・マクタンリゾート&スパ」だ。国際空港のあるマクタン島に位置し、全長350メートルのプライベートビーチやキッズのための屋内遊戯施設、カラオケルーム、スパ施設、ショートホールのゴルフコースなどが敷地内にあるうえ、大小のボールルームやファンクションルーム、会議室、さらにはレセプションで1100名が収容できるマーキーも併設されている。冷房装置などに若干の改善余地はあるものの、リゾート地ならではの演出も可能だ。

 日本人医師団のセブ派遣などを手掛けるアトランティスツアーの松澤晴之氏は、「マニラに比べ、ナイトクラブなどの客単価はセブのほうが高いが、山の手には趣味の良いレストランやカジノもあり、治安もよい」と語る。市内にはボール・ルーム・ダンスが楽しめる日本人経営のジャズバーもあり、洗練された夜遊びも可能だ。


観光省や自治体の積極誘致を望む

 

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 アジアにおいて、周辺諸国が国をあげてMICEを推進するなか、フィリピンのMICEはまだあまり知られていない。今後のMICEの可能性をさぐるなかで、パブリックで戦略的なアプローチを望む声も聞かれた。観光省や自治体などが一体となって誘致をはかることで、フィリピンのMICEをさらに特化させることができるだろう。イミグレーションの便宜やホテル、トランスポーテーション、アクティビティなどの交渉をよりスムーズにできるよう、政府からのアプローチをさらに積極的にしてほしいというもので、KNTの橋本氏は「マカオのような成功事例を真似るだけで、フィリピンは大いなる可能性を見出すことができる」と語る。 

 

 フィリピン会議観光公社副理事のロスビー・ガイトス氏は「フィリピンは日本からのアクセスがよく、国際会議などMICEの利用には至便。日本マーケットの今後に期待する」と重視する姿勢を見せる。また、フィリピン観光省東京支局セクションチーフの横山泰彦氏は、「対象のグループがある場合は本省に応援要請をするので、相談してほしい」と呼び掛ける。具体的な目標数値や予算などの枠組みはこれからというが、フィリピン会議観光公社とフィリピン観光省の今後のMICE対策に期待したい。

 

取材協力:フィリピン観光省

取材:千葉千枝子